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宇宙天気予報センターにインターンに行ってきました。

めっっっちゃ久しぶりにブログ書きます...。

先週、宇宙天気予報センター(正確には情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室宇宙天気予報グループ)とか言うところで一週間ほどインターンシップに参加してきました。一週間なのでいわゆるインターンシップというよりは業務体験、研修の意味合いのほうが強かったのかなと思います。

普段は自分の研究分野の話とか(少なくとも対外的には)してこなかったんですが、宇宙天気という概念の宣伝とかにもなるのかなあと思いここでインターンの体験記でも書いてみようかな、と思います。

あとこのあたり界隈が狭すぎて、情報によっては個人が特定できる気もしますが、放っといてもらえると嬉しいです。じゃあ書きます...。

どこにインターンシップにいったんですか?

インターンシップ先の組織名は国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)というところになります。総務省の管轄下にある国の研究機関です。

www.nict.go.jp

有名な業務としては日本標準時の管理があるでしょうか?例えば、精度が高いと言われる電波時計は、日本国内においては日本標準時を知らせる電波を定期的に受信して時刻を合わせています。日本標準時を管理し、その時刻を知らせる電波を発信しているのがNICTです。2017年の元日にあったうるう秒の挿入の際には、8時59分60秒が表示される時計がニュースとして報じられていましたが、あの時計もNICTのものですね。

www.youtube.com

NICT情報通信研究機構という名前になっていて、業務内容は非常に幅広いものになっています。上で紹介した標準時の管理の他にもネットワークやサイバーセキュリティ等々情報通信に関する幅広い研究を行っています。


NICTにはいくつかの研究所がありますが、その中に電磁波研究所という研究所があります。電磁波研究所はいくつかの研究センターで構成されており、そのうちの一つに電磁波伝搬研究センターというところがあります。そのセンターの中にもいくつかの研究室があり、そのうちの一つである宇宙環境研究室というところが今回の自分のインターンシップ先になります。

seg-www.nict.go.jp

組織の樹形図が長すぎてよくわからないですね。正直、僕もよくわかってないです。NICTの中の研究室の一つである宇宙環境研究室にインターンシップに行った、ぐらいの認識でいます(いいのかな?)。


宇宙環境研究室は「研究室」とはありますが、大学などの研究室と違って学生はおらず(いたのかもしれないけどお会いしてないです)、研究員の方と予報官の方、そして事務員の方などで構成される20-30名?ほどの組織でした。

実は、宇宙環境研究室は宇宙天気予報を昼夜問わず発信しています。そのため、予報官の方には夜勤の方もいらっしゃいました。また、リモートワークをされている方もそれなりにいらっしゃっいました。なので、全部でどのくらいの規模の組織かは最後まで把握しきれませんでした。たぶん20人前後かなあと思います。

体験した業務内容はなんだったんですか?

応募した際の書類に記載してあった「インターンシップ内容の概要」にはこのように書いてあります。

宇宙天気予報に必要な基礎的な知識・技術を習得する。 ・実際の観測やシミュレーションデータを利用して宇宙天気予報の演習を行う。

インターンシップに実際に行ったところ、正しく書いてある通りのことをしてきました。宇宙天気予報に必要な知識や技術を習得し、演習を行ってきました。

詳しい内容はこれからちゃんと書きます。

宇宙天気予報ってなんですか?

宇宙天気を予報することです。

…それはそう。宇宙天気ってなんですか?っていう話ですよね。

NICT宇宙天気予報に関するサイトを持っていまして、そこには宇宙天気についての説明もあります。

swc.nict.go.jp

詳しくはそちらを見ていただければと思うのですが、ここでも簡単に説明します。

私達の住んでいる世界では、家から外に出て上を見上げると空が広がっています。広がっていなかったら多分橋の下とかにいると思うので、そこから出てみてください。多分空はあります。なかったら困ります…。 空は晴れたり曇ったり雨が降ったり色々と変化します。空の様子は天気と呼ばれ、天気の変化は私達の生活に大きな影響を及ぼします。外出先で突然雨が降ってびしょ濡れになるのも、天気が晴れから雨に変わったせいですね。とても困ります。

さて、こういった「天気の変化」というのは私達の頭の上から大体1km~10kmぐらいまで上に登ったところで起きています。ちなみに夏に見える入道雲(積乱雲のことです)はの一番上は高さが10kmぐらい、場合によっては10kmを超えたりします。逆に、10kmより高い場所になると雲はほとんどできなくなり、いわゆる「天気の変化」はほとんど起きません。最近、10kmより高い場所の影響で天気が変わる可能性があることがわかってきたりはしてるそうですが、やはり天気のメインの変化は高さ10kmまでと言って良いでしょう。

次に、そのもっと上について考えてみます。 私達の頭の上からまっすぐ上に登っていって、高さ100kmを超えるとそこは宇宙と呼ばれるようになります。宇宙では空気はほとんどありません。空気のほとんどない宇宙に生身で放り出されて生きていける人間はいないでしょう。(そのため、宇宙ステーションの外に出る宇宙飛行士は宇宙服を着ます。) さて、宇宙空間では空気がないので、雲はできませんし風は吹きません。当然雨も降りません。では地球から宇宙に出たら、そこには空気がほとんどない暗闇が広がっているだけなのでしょうか?

実はそうでもなさそう、ということが最近(最近と言ってもここ50年ぐらいの話です)わかってきました。宇宙には僅かですが(ほんっっっとうに僅かです。)空気はあります。さらに、宇宙での本当に僅かな空気の変化が私達の生活に影響を及ぼす事もわかってきました。と言っても、普通の天気のように雨を降らせたり猛暑にしたりして私達の生活に影響を及ぼすわけではありません。宇宙での空気のほんの僅かな変化が、例えば、人工衛星を故障させてしまったり、無線通信を乱してしまったり、GPSを少し狂わせてしまったりすることがあるのです。

このように、私達の日常の遥か上空100km以上、場合によっては数万kmであったりしますが、その宇宙という場所での変化が、私達の生活を支える人工衛星や無線通信、GPSなどに影響を与えています。私達が見上げた先遥か遠くでの変化が私達の生活に影響を与える様子はまるで天気のようです。しかし、普通の晴れや雨などのことを指す普通の天気とは全く異なります。そのため、私達の生活に影響を与える宇宙の変化のことを普通の天気と区別して宇宙天気と呼ぶわけです。

宇宙天気予報とは、「宇宙天気」の現況を把握して予報を行うことを指します。観測データから現在の宇宙天気を把握し、「今宇宙の天気がこうなっているから、こういう現象に注意してください。また、今後数日の間にこういう現象が起きそうです。」という形で発信するのです。


ちなみにこの文章を読んで、「明日の宇宙天気予報をチェックしたことない!」と不安になる必要はないと思います。2023年現在、宇宙天気を毎日把握する必要がある一般の人というのは多く内容に思います。現状宇宙天気予報は、人工衛星を運用する会社やGPSの載ったドローンを活用している会社、あとは航空会社などに必要とされている情報なのかなって思います。あとはオーロラを見に行く人ですかね?(オーロラは宇宙天気の影響をもろに受ける現象の一つです。)

ただ将来的に社会インフラがもっとIT化したり、宇宙旅行がもっと日常的なものになったりしたら、宇宙天気も身近なものになるかも…?しれません。

ちなみに、日本では現在宇宙天気予報はこんな感じで発信されています。一般の人が日常的にこのサイトを見る必要性は現時点ではそんなにないとは思いますが、見てるだけで楽しいのでよろしければ見てみてください。

swc.nict.go.jp

どうやって応募したんですか?

ここから具体的なインターンシップの中身に入っていきます。まずは応募ですね。NICTは「国内インターンシップ制度」というプログラムを用意しています。詳しくはこちらから見ることができます。このインターンシップ制度の特徴として、かなり多岐に渡るインターンシップが募集されているところがあげられます。自分はこの中でも「宇宙天気予報の基礎・応用」という課題名のものに応募しました。NICT宇宙天気予報関係のインターンシップが生えたのはかなり新しいらしく、去年からのようです…?

www.nict.go.jp

毎年募集している…?ようなので、気になる人は来年度確認してみてください(来年も募集があるかはわからないです。)。

応募条件や選考基準は?

選考基準の詳細は知りません。(それはそう。知っていたら逆にまずい。)

今年の応募条件は大学院生かつD1以上らしいです。あと、「太陽・太陽風、磁気圏、電離圏、超高層大気を含む宇宙環境分野に関する知見がある方を優先的に採択する。」だそうです。なので、僕の研究分野が磁気圏だったのは大事だったはずです。

(後述しますがインターンの内容がかなり詰め込みだったので、そもそも宇宙天気関係に片足突っ込んでいる人じゃないと選考通ってもインターンシップの時にだいぶ辛いとは思う。)

選考課題に過去の主要な論文とか書いてありますが、論文一本も出してないのに通ってしまった。(´・ω・`)

学会での発表歴とかの書類を送った記憶があります。 定員は1です。倍率は知らない。

待遇は?

研修場所は東京小金井市NICT本部だったのですが、交通費、宿泊費は全額出していただけることになっています。むちゃくちゃ助かる。

お給料はないですが、若干の日当?みたいなものはあります。インターンシップといいつつ1週間の研修みたいなものなので、明確なお給料が出ないのは仕方ないと思います。(この辺、「インターンシップ」という単語に対して業界ごとにめちゃくちゃ温度感が違う気がする。)

期間も短いので、行く場合はノウハウ吸い取りまくるみたいな覚悟で行くと得られるものが多いと思います。(僕はそうしました。)

事前課題等は?

特になかったです。インターンシップ前に誓約書みたいなやつとか色々書いたりはしました。

実際の業務内容は?

インターンシップ期間は1週間、というか実質5日、月曜日→金曜日だったんですが以下のようなプログラムでした。

  • 月曜日 顔合わせ、施設見学、講義
  • 火曜日 講義、予報業務演習
  • 水曜日 予報業務演習
  • 木曜日 予報業務演習(+講義)
  • 金曜日 予報業務演習

また、宇宙環境研究室では毎日「予報会議」というものが30分前後行われます。研究員と予報官の方が集まって、その日に出す予報の最終確認をし、議論するというものです。

インターンシップ期間中は予報会議にも毎日参加していました。

施設見学

宇宙環境研究室の施設見学とNICT本部の展示室の見学を2時間ほどさせていただきました。施設見学では、研究や予報のためのシミュレーションで使うスパコン、でっかいアンテナ(衛星から観測データを受信するためにある)、観測施設(イオノグラム)などを見学させていただきました。あんまりハード系は触ってこなかったので新鮮でした。

受信用アンテナ でかい

特に、衛星からデータを受信するアンテナを運用しているのは結構意外&すごいなあと思いました。(宇宙天気予報に重要な人工衛星による太陽観測について、現状日本はアメリカの衛星に依存しています。ですが、その衛星から24時間データを取得するための受信ネットワークについて、受信アンテナを運用することで重要な役割を果たしているという話です。)


宇宙環境研究室の施設見学のあとはNICT本部の展示室の見学に行きました。

NICT本部の展示室は予約すれば誰でも無料で見学できるところではあるのですが、普通に存在を知らなかったので見学させてもらえたのはありがたかったです。解説をしてもらいながら、NICTの各研究分野の紹介や、研究成果を見て回りました。 NICTの研究分野は正直言って、標準時と宇宙天気しか知らなかったので学びがすごく大きかったです。指向性スピーカーの研究とか面白かった。

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講義

講義: 宇宙天気予報の基礎知識について、5つの分野(太陽、太陽風、磁気圏、電離圏、予報業務全般)についての講義を受けました。各講義質疑応答を含めて一時間ほどで、分野ごとに専門の研究員の方が講義してくださいました。結構たくさん質問してしまったのですが、丁寧に答えてくださいました。

ちなみにこのインターンシップ研修は定員が1なので、講義も実質マンツーマンでした。贅沢すぎる。(後ろで聴講されている他の職員の方もいらっしゃいました) 自分は磁気圏以外は割と素人なので、学ぶことがたくさんありました。結構詰め込んだ感じもします。

また、木曜日に宇宙天気の具体的な災害例などについての講義を行っていただきました。宇宙天気が地上にどのような影響を及ぼすかについての詳しい話はこのインターンシップで一番知りたいところの一つだったので、ありがたかったです。

予報業務演習

講義を受けたあとは予報業務を行います。

実際にやることは、衛星による観測結果等々色々なデータを確認して、宇宙天気予報で重要な指標を確認したり、場合によっては導出したりします。その後、それらの指標を元に自分で判断してみる、といった形です。宇宙天気予報用のチェックシートが用意されていて、基本的にはそれに従って進めていきます。

意外にアナログ要素が多めですね…。正直、各データを勝手にコンピューターが飲み込んでまとめてシミュレーションとかにかけてくれるんかなあとか思っていたのでかなり意外でした…。


宇宙天気は研究がまだまだ発展途上です。また、現状では宇宙天気を予報するのに本来必要な情報に対して得られる観測情報がかなり少ないです。人工衛星を宇宙のどこか観測したい場所に向かわせるのは、たとえ人工衛星1つだけであっても簡単ではありません。その結果、かなり少ない宇宙の観測情報から、そもそも今宇宙は「晴れ」なのか「雨」なのかを判断する必要があります。(そしてそれも難しい)

それゆえ、様々な観測データを人間が確認し、必要とあればシミュレーションを行い、人間が総合的に判断する、という形を取っているのかなあと思います。


で、この様々な観測データを確認する、というのがむちゃくちゃ大変でした。一通り予報のたたき台を作ろうと思った時、数え方にもよりますが最低でも20~30種類のデータには目を通すんじゃないかなあという感じです。また、そのほとんどが初めて見るデータなので、データの見方も勉強する必要があります。おかげで、今日の予報を考えるためにデータを集めて見方を勉強している間に今日が終わる…という感じがずっと続きました。

自分で考えた予報は、予報会議の内容と比べてブラッシュアップし、担当の方に見てもらって添削していただきます。チェックシートの内容通りに埋めたつもりでもデータの見落としだらけで、難しいなあってなりました。

1週間じゃ足りない…。もうちょっと時間かけて勉強したかったというところが正直なところです。


最終日には自分で考えた発表を、研究室のみなさんの前で発表しました。上に書いた通り指定された予報を全て終わらせるには全く時間が足りなかったので、太陽フレアの発生予報のみ発表させていただきました(あと1週間あれば…とは思いましたが、これも力不足…)。

観測データとその解釈、そこからの現況と予報判断を発表するわけですが、これはそこそこ上手く行ったと思います。(???)   予報の難易度は宇宙天気の状況次第でもあるので、ケースバイケースなのだと思います。僕が発表した日は太陽が比較的穏やかな状況だったのがありがたかったです。

ちなみに、太陽フレアの発生予報のあとに、「考えたところまでで」ということで地磁気擾乱についての現況把握を発表したのですが、これについては見事に撃沈しました…。ムズい…。そして、このクォリティの予報を毎日発信されていることは本当にすごいことなんだなあと実感をしました。

補足

インターンシップ中には自分に対して一人担当の方が付いてくださり、その方からの指示に従う、という形でした。

業務演習中の質問に対していつも丁寧に答えてくださり、非常にありがたかったです。また、他の職員の方とも昼休憩などの際に話す機会があったので、5日という期間の中でもかなり色々な話を聞けたように思います。

まとめ

というわけで、宇宙天気予報センターのインターンシップというなかなか珍しいインターンシップをしてきたわけなのですが、非常に良い経験値を得られたと思っています。様々な観測データに触れられたことは自分の研究に活かせそうですし、何より自分の研究と社会の接点を間近で見ることができたのが貴重な体験だったと思います。

あと、毎日宇宙天気予報の日報を見るのが楽しみになりました。見方がわかると面白いですね。

なにか質問等ありましたらいつでもぶん投げてくださいまし。 ではでは。